2022年9月8日木曜日

チーフスタッフコラム9月:「聴かれる権利」

子どもたちはなかなか自分の本音を言えないといいます。
かつて児童館の職員の方とお話しした時に、「学校では本音を言えずに演技をしている」と言う子どもたちが多くいるという話を聞きました。

自由に言いたいことが言える「自由」を私たちは手に入れたはずなのに、これを言っていいのかあれを言っていいのかと考えて何も言えなくなる子どもたちがいます。
私たちは自由ですが、「自由」であるということは、確かな基準が無くなって枠のない真っ白な画用紙の上に所在なくふわふわといるような感じなのかもしれません。

土井隆義(筑波大学)は、
「今日の社会では価値観が多元化し、多様な生き方が認められるようになりましたが、だからこそ高感度の対人レーダーを常に作動させ、場の空気を読み取り、周囲の反応を探っていかなければ自己肯定の根拠を確認しづらくなっています。いわば内在化された「抽象的な他者」という普遍的な物差しが存在しなくなったため、その代替として、身近にいる「具体的な他者」からの評価に依存せざるを得なくなっているのです」(『中高生のメンタル系サバイバルガイド』日本評論社2012)
と、言います。

人々は、自分の発言がどのように評価されるか、人を傷つけていないかを常に気にして高感度な対人レーダーを作動させています。

常にだれかに承認されることを求める、他者と比べて評価を求めてしまう心情は、従来の画一的な物差しが機能しなくなっているのに、それに代わる新たな自己評価の物差しがこの社会ではまだ確立されていないため、常に身近な他者から評価される不安を抱えこまざるを得ないからだと土井は説きます。

子どもの権利条約第12条に「意見表明権」があります。
【子どもの権利条約12条。ユニセフ抄訳「子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利を持っています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません」】

子どもは保護の客体であると同時に「権利の主体」である(1989年子どもの権利条約国連で採択)。
意見を言う権利は「the right to express those own views」であって、opinionに限定されるものではありません。
自分の気持ち、感情、その時々の考えや思いを表明していい権利です。
こうした権利が守られるために私たち大人に何ができるのでしょうか?

見落としてはならず、今求められているのは「right of to be heard」。
つまりは「聴かれる権利」だと言います。

私たちは、この「聴かれる権利」が子どもにあること、子どもだけでなくすべての人にあることをもっと自覚し行使しなければなりません。

茗荷谷クラブにも、コミュニケーションが苦手だったり言いたいことが言えない、どう話していいかわからないと悩みながら来ている方が多くいらっしゃいます。

自分の気持ちや意見を言うのは容易ではありません。特に今現代はそうであると思います。
私たちみんなが「聴かれる権利」を尊重し、本音で楽な双方向のコミュニケーションができることを願ってやみません。

チーフスタッフ 井利由利

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