「自分の機嫌は自分でとる」とある方が話されました。その方は、家族の理不尽なあらゆる感情を八つ当たりされてきました。
個人の心のスキーマ(認知の仕方)など、いわゆる個々の持つ心のシステムに働きかけ、情動的受容を礎にしながら、カウンセラーと共に理解を深め、事象を客観的、理性的に見ることで、いわゆる「気づき」を目指し、本来のその人の持つ感情を大切にその人らしい生き方を共に模索していくのがカウンセリングです。
でも、問題はそう単純ではありません。様々な理不尽、どうにもならないこと、時には聞くに堪えないほどの酷い環境であったりします。
いつも私の頭の中に以下の言葉があります。
『そもそも個人のシステムと環境のシステムとの間に不適合がある場合、カウンセリングは環境の問題を解決しようと言う発想を持たない。むしろ適合できない個人のほうに関心を向けさせ、個人の問題として解消を図ろうとする。結果的に、社会に生じる矛盾や問題にはあえて目を向けさせない方策といえなくもない』。
カウンセリングの功罪と言われたことです。
ずっと以前に読んだ著書、確か「カウンセリングの功罪」という本だったと思のですが、メモは残っているのですが、ネットを調べても見つけられませんでした。なので不確かな情報ですみません。
大きな目で見ること、社会との接点を忘れずにいることが大切です。
そして個人とお話しするときにも、個人の問題にのみ収斂するのではなく、常に置かれた環境とのバランス、そして環境(社会)へ、そのおかれた場へ提言していくことや働きかけを同時にしていかなければならないことを忘れてはいけません。
2023年4月「こども基本法」が施行されました。
「心身の状況、おかれている環境等に関わらずその権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活をおくることができる社会の実現」を目指していくと宣言しています(こども基本法1条)。
なお子どもを平仮名で「こども」としているのは、「こども」の定義について、年齢で定めるのではなく「心身の発達の過程にある者」としています。18歳以上の若者も入ります。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの西崎萌氏は、子どもの虐待など子どもに対する悲惨な事件が後を絶たないのは、「一個人の問題ではなく社会全体が子どもの権利を軽視した結果である」と述べています。
基本的人権は、重要なキーワードです。
(本コラム参考文献)
先の方は今、非常な努力を重ね、家族と離別し、新しい環境の中で生きています。
そして「私は自分の機嫌は自分でとる。小さい時から自分だけは、家族の中で、そういう人だったことに気がつきました」と話しています。
「ひきこもり」についても、個々への丁寧なかかわりと、社会の問題であるという意識を持ってやっていきたいと改めて思います。
チーフスタッフ 井利由利