8050問題における「支援」をどのようにしていけばいいのか?とても難しいと実感しています。
8050問題に至らないように予防していくことが重要です。
包括支援センターにかかわる人、介護職員、ケアマネさんたちなどの現場で動く相談員の人たち、様々な人たち、ご自身が関わった経験がある人が、「東京都ひきこもりに関する支援状況等調査 2020」によれば、92.4%が担当地区に「ひきこもり状態」の人がいることを把握しているという結果が出ています。
実際の現場では、
「どう声をかけていいのかわからない」
「そもそも声をかけた方がいいのか、いや、かけない方がいいのではないか」
「親である高齢者の支援で手一杯であるし、その子どもにかかわることでこれまで培ってきた信頼関係を崩してしまうかもしれない」
「パンドラの箱を開けてしまうような感じ。実際その後どこへつなげばいいのか、何ができるのかわからないのに、声をかけることができない」
「本人が困っている、あるいは支援を受けたいと思っているのかどうかわからないし、拒否される可能性のほうが、予測しやすい」
などの声を聞きます。
これまで私がかかわったケースにおいても、ご本人がひきこもりから脱したいと思っているのかを明確に話されないケースが多いです。
私たちは、どのように考えていけばいいのか?
一つのヒントが、薬物依存を考える「ハームリダクション」の考え方にあるのではないかと思い紹介したいと思います。
「ハームリダクション」とは、「被害を減らす」「つなげる支援」です。
驚いたのは、注射室(利用者が薬物を使うためのブース)が用意され、利用者はここで注射をすることができるということです。
薬物をやめられない人の多くは、その負い目から助けを求めにくいため、当事者が薬物を使用できる場所を用意。
それをきっかけに背景にある困りごとを聞き出し、必要な支援につなごうというのです。
実際、薬物をやめられたらやめたいけれどやめられない、やめないと早くやめなさい、なぜやめないんだと叱責される(犯罪者となる)状態で、一旦支援を受けてもまた薬物を使ってしまうと、申し訳なくて、怖くて、もう二度とそこへはいけない。
そして支援が切れてしまうことがほとんどだということです。
ひきこもっていることは、悪いことでも犯罪でもありませんが、当事者や家族の気持ちとしては薬物依存と同等な罪悪感やうしろめたさを持っているということに私たちは敏感である必要があります。
そしてほとんどの人が一度は支援を受けようとどこかに行ったことがあり、それでもうまくいかなかった、それどころか責められたという経験をもっていることも考えていかなければなりません。
ひきこもっていてもいい、大事なのは、引っ張り出そうとか、様々な支援の方法を提示することの前に、そもそも持っている痛みや生きづらさを少しでも和らげる。
人に対する信頼感をどうやって回復していくのか。
つまり様々な地域の人たちをはじめ多くの人々につながることがはるかに大事であるということだと思います。
そのためには、まず私たちが「注射室」になる、ということが必要なのかもしれません。
「ここは利用者が薬物を使うためのブースです。利用者はまずこちらでハームリダクション用品を受け取ります。
中には安全に薬物を使うために必要なものがそろっています。すべて清潔で消毒済みです。止血帯、蒸留水、アルコール綿、クッカー(薬物を温めて溶かす器具)、注射器もあります」(この部屋では、自分で手に入れた薬物を持ち込んで使うことができます)。
そして根底にあるのが、「尊厳を大切にすることが回復につながる」です。
茗荷谷クラブチーフスタッフ 井利由利
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