第34期東京都青少年問題協議会では、「東京都子供・若者計画(第3期)」の改定に向けて、第3期計画で取り組む事項としての答申案が出されました。(12月19日プレス発表、傍聴あり)。
「困っていたら周囲の人が助けてくれると思う」若者の割合は現状で、57.2%。
「自分の意見が採用されると思う」若者の割合が現状では50.9%。
「自分の行動で社会を変えられると思う」若者の割合が、現状、29.4%。
この現状を見ただけでも、若者の大半が、生きる意欲を持ちにくくなってる、生きづらいことが想像されます。第3期の改定により、この数値を現実の施策を基にいかにあげていくかが課題です。
なぜ、このようになっているのか?今回は、心理学的な視点―アイデンティティ-の話から模索してみたいと思います。
アイデンティティ理論は、発達心理学者エリクソン(Erikson E.H1902-1994 )がその基礎となっています。
エリクソンの発達段階説では、人は、成長するための8つの発達段階における「危機」(社会的危機)があり、それをクリアーしながらその段階の発達課題を乗り越え、成長していくとしています。
青年期の発達課題はアイデンティティの獲得であり、社会的危機は、アイデンティティ拡散とされています。
アイデンティティとは、過去から現在、未来につながる一貫した連続性、独自性を持った自分自身であるという確信。そしてそれが周りの人たちや社会においてもそういう自分であることが一致して認められていることを言います。
青年期のアイデンティティが課題とは言え、現代の若者は今やアイデンティティ拡散状態が一般的になっているとすでに1980年代に小此木(小此木啓吾「モラトリアム人間の時代」)は述べています。
アイデンティティ拡散状態になると、生きづらさを抱えることになります。
アイデンティティ拡散状態とは、自意識が過剰となって自分が、社会の中で、何に向いているのかを模索する「モラトリアム(それを試行錯誤しながら“実験”する期間)」のプロセスを楽しむ活力が失われ、自己定義を回避し、選択できなくなっている状況を指します。
また、自分が拡散しているので、人との距離の取り方が分からず親密になると飲み込まれる不安を抱えることになります。時間が停滞し、未来に対する希望や展望が失われます。
マニュアル化された社会の中で、若者は試行錯誤したりチャレンジする“溜め”の時間を失い“役割実験”ができなくなっています。
このことは青春時代の喪失であり、ひきこもりを生み出す要因になっていると鈴木國文(鈴木國文他『ひきこもりに何を見るか』)は述べています。
なんでもマニュアル通りにやらなければならないは、失敗が許されないと同義語に近いため、失敗できないと身構え、自由に動くことができなくなっているのではないかと思います。
こうした現代社会の中で、従来のアイデンティティを獲得していくことは容易ではありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
アイデンティティの獲得は、「大人はかくあるべし」と言うものではありません。
もっと柔軟にモラトリアムを生き抜いていくことが勧められていいと思います。
ここには、アイデンティティ拡散を積極的に肯定的にとらえる視点があります。
上記に述べたアイデンティティ拡散を自覚し、それに陥ることなく「暫定的・一時的な社会的存在であること自体を新しいアイデンティティとして自己を実現していく」(小此木)ことです。
若者たちが、心理的危機を乗り越えるために社会に求められている、オトナに求められているのは、すべての選択は暫定的であっていいという柔軟さとゆとり。人は自分の生き方を生涯にわたって変える権利を持っています。
「あなたはあなた」です。
そして自分の個性は多くの個性に囲まれて気づき、築かれるものだと思います。
様々な大人や仲間との関係の中でその時その時に何らかの役割を果たし、実験をし、安定感を感じ、肯定的な自分らしさを見出して欲しいと思います。
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チーフスタッフ 井利由利