私事ですが、12月にコラムを書かなければいけない時期に、入院ということになってしまいました。
突然倒れるような塩梅でみんなを驚かせ、本当に情けない・・・!
肝嚢胞に細菌が入り込み(ちなみに肝嚢胞は誰にもあるわけではなく先天性の水袋のようなもので、あっても普通は何の問題もないものです)、それが増殖して炎症を起こし、肝臓や胃や腎臓がアラームを発するような状態で、…でも、治りました!
一時はあまりに痛くて治らないし、だめか・・・と思った時に、娘が「大丈夫!お医者さんを信じて!頼って!」のメールに励まされ乗り切りました。
信じることの大切さを改めて感じた次第です。
さて、今回は少し脳の話をしたいと思います。(「脳科学から感情を考える」ー米田英輔准教授の講演より)
脳とは頭にある神経の中枢で、神経細胞ニューロンは情動を生み出すのですが、まだまだ分からないところが多いそうです。
基本的な喜怒哀楽の情動(basic-emotion)は人間の進化に必要なものでした。
特に怒りの感情は、恐怖の防衛反応ともいわれ、私たちの命を守るために必要不可欠でした。
危険が迫ったとき、敵と対峙した時に身を守るため、「攻撃」か「逃避」行動をとるように脳が働きます。
自分の怒りの感情は、辛いし、持て余してしまうことも多いのですが、怒りは、私たちの生存のための脳の基本的な働きです。
この部分は偏桃体が活動しています。
また、私たちは悲しいときも、困ったときも怒ってしまいます。これは、同じ脳領域(偏桃体)が活動しているからだそうです。
次に他者について考えるときに生まれる感情、社会的感情(social emotions)についてです。
取り上げたのは、「妬み」と「他人の不幸に対する喜び」です。この二つの感情を賦活させる物語を読んでもらい、脳の活動をfMRIという実験装置を使って計測しました。
結果は…。
■「妬み」について
実験参加者は自分より優れており同性の登場人物に対し強い妬みを感じ、前部帯状回が活動。
これは葛藤や身体的な痛みを処理する脳内部位で、「妬み」は脳内では「痛み」と同じ部位が活動するようです。
■「他人の不幸に対する喜び」について
人がひどい目に会った時に喜びを感じるようにできていて、これは、腹側線条体の活動が関係しているという結果が出ました。
この線条体は「報酬」を受けた時に活動する脳領域だそうです。
というわけで、いやはや、私たちの嫌だなあを思う自分の感情は、進化の過程で必要であり、かつ脳の仕組みがそうなっているのですから、ある意味仕方ない・・・。
そのことを認識することは、大きな強みとなるのではないかと思います。
ただ確かに個人差はあるわけで(生まれつきだったり、大きくは環境との相互作用と言われています)、脳の個人差ともいえます。
生きづらくさせている社会的情動を制御し、レジリエンスを高めるためには、グループ活動と自分の感情に気づくこと、個人の過去を含めた自伝的物語を「なつかしさ」として聞いてもらえることが有効であることを米田先生は実証されています。
そして、私たちの脳の不思議さとその柔軟性、互いに補おうとする力は信じられるものです。
「脳が壊れた」(鈴木大輔・著)は実際の自身の脳梗塞の体験を詳細に語った本です。
その中の1文を紹介して今回を終えようと思います。
「当たり前の話だが、コミュニケーション力や他者への共感力なども、個人差はあれど多くは教育と訓練の経験の中で発達していくものであり、機能不全家庭の中で適切なコミュニケーションを経験せずに育ってきた彼らが「発達不全」なのは障害ではなく自然な成り行きなのだ。
脳梗塞で幾分かの脳細胞を失った僕は、この発達途上の段階にいきなり逆戻りさせられ、リハビリによってその発達の追体験をしている。
これはまた、なんと稀有な体験だろう」
行きつ戻りつしながら、私達は生涯リハビリを続けていくのかもしれません。
チーフスタッフ 井利由利